ピラニア軍団の夏休み 2

人形佐七とタカハシ

本名はともかくとして、仲間内からそう呼ばれている27、8の若い男がいた。彼は親分の片腕で、S商事の番頭であった。テレビに出て来る人形佐七そっくりの水も滴るイイ男だった。焼き芋屋としての腕もピカ一だった。ヤキイモを仕入れに行くといつも彼が応対してくれた。料金を受け取り帳簿を付けるのも彼の役目だった。

S商事は冬はヤキイモ、夏は網戸、春と秋は物干し竿を商った。私も物干し竿を自分のトラックに積み込み、春と秋は遠く北海道、九州まで売り歩いた。

人形佐七は常に売り上げはトップだった。彼に、どうやったらそんなに売れるのか聞いてみたことがあった。彼は、女だったらしびれてしまいそうな顔に笑いを浮かべてこう言った。

「『これいくら?』と聞かれたら『この竿は千円でこの竿は三千円です』と正直に答えるだけだ」と。

そして竿のサンプルなるものを見せてくれた。それは彼が作ったもので、長さ50センチに切った竿で両端にキャップが嵌めてあった。竿の真ん中から下25センチにわたって表面のビニールがはぎ取られ、下の鉄のパイプがむき出しになっていた。竿は2本あって1本は緑色をした安物で、むき出しになった鉄パイプの部分は真っ赤に錆びて、所どころ穴が開いてボロボロになっていた。もう1本は銀色の高級品で、鉄のパイプはメッキされていてピカピカできれいなものだった。

「この2本を客に見せて『安物はいずれこうなりますよ』と説明するんだ」

と彼は親切に教えてくれた。

「女達はたいてい高級品を争って買うぜ」

と言って彼はニヤリとした。私は早速同じようなサンプルを作り、旅先で彼のやり口を真似て売ってみた。しかし、彼の言うようにはなかなか売れるものではなかった。それどころか、サギ師じゃないかと怪しまれる始末だった。女達はきっと野郎の目を見てボーッとなり、何が何だかわからなくなるんだろうな、と思った。

今度生まれてくるときには俺もうーんとイイ男に生まれてこようと思った。

さて、親分にはもう一人片腕がいた。年のころは人形佐七と同じだが体がバカでかく、単純朴訥で相撲取りにでもなったほうがふさわしい男だった。皆からはタカハシさんと呼ばれていた。

「クリちゃん、俺よう、バンコクに行きてえな、クリちゃん、頼むよ、いっぺん連れてってくれ、バンコクの夜、いいなあー行きてえなあー。俺は両手に女の子、ウッフン、バカン、なんちゃって!もう、たまんねえなあ」

などと私の前でおどけて見せた。

「クリちゃん、一緒にバンコク行こうぜ」が彼の口癖だった。その旅はついに実現しなかったが、ある年の夏、私は彼と二人で網戸の行商の旅に出た。大宮を過ぎて桐生に着き、駅前のビジネスホテルをねぐらにして、毎日桐生の街や郊外を売り歩いた。

タカハシは人形佐七に負けぬくらい腕が良かった。ある日彼は「売り方のコツ教えっから一緒に行こう」と私を誘ってくれた。

私は自分の商売用トラックをビジネスホテルに置いて、彼のトラックの助手席に乗った。タカハシのしゃべりは立板に水で客を引き込みその気にさせた。さすがプロは凄いものだと感嘆した。

でも失敗もあった。

「オイ、ここの家の網戸破れているぜ、それにだいぶ古くてガタ来てるな、よーし!クリちゃん、ちょっと待ってナ」

とタカハシはある民家の前でトラックを止めて、庭にいた奥さんに声をかけた。

「チワー、網戸の張り替え、安くしときますが!」

と早速、営業を開始した。でっかい男がノシノシやって来たので中年の痩せた奥さんはびっくりしたが、すぐに体勢を立て直した。気の強い女だった。おまけに、ダンナと喧嘩した後らしく機嫌が悪かった。

「何言ってんのよ!でっかい図体してさ、でかい声でまくし立てりゃ人が怖がって買うと思ったら大間違いだよ」

と逆襲してきた。まるで大きなセントバーナード犬がネコにバシッと引っ掛かれてスゴスゴ引き上げる時のように、タカハシは方を丸めてハアハア言いながらそこから逃げ出した。時にはこんな失敗もするのだ。それでも

「あんな奥さんでも機嫌が良きゃあ、買ってくれたにチゲえねえ」

とぼやいていた。

タカハシは他の連中みたいにパチンコや博打はしなかったし、毎日まじめに売り歩いた。夕方宿に戻ると一緒に風呂に入り、それから晩飯を食い、行きつけの近くの飲み屋に行った。タカハシはまるで、馬みたいによく食いよく飲んだ。「俺はクリちゃんの倍は稼いでいるから」と言って私に食事代を払わせなかった。私のことを弟分と思っているらしかった。安い店だったがタカハシは毎晩そこで1万円位使った。丸メガネの人の良さそうな店の主はホクホクしていた。酔うと、

「俺はよう、金にぎったら、岩手の田舎に帰ってよう、ヨメサンもらっておふくろに不自由させないようにするんだ」

と言ってタカハシは自分の田舎のことを良く話してくれた。売り上げから宿代と飯代を差し引くとたいして残るはずもなかったが、タカハシは決して愚痴を言わなかった。

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