ピラニア軍団の夏休み 3

親分と北海道キャンプ その1

S商事の中庭には常にスピーカーのついたスズキの白い軽トラックが20台以上停めてあった。これは一日千円で親分が子分達に貸している営業車であった。私は自分のトラックを使用して通っていたから、親分は私を客分として扱った。親分は私のことを「栗岩さん」と呼び、私のことが気に入っているらしく何かと便宜を図ってくれた。

モチつきの日に一度、私は親分の家に呼ばれた。こぎれいな立派な庭付きの住宅だった。奥さんは美人で良家の奥さんという感じで、どうにもヤクザの奥さんには見えなかった。家の中は清潔できれいに片付いており、子供たちはしつけが良く礼儀正しかった。そして彼は酒を一滴も飲まず、家庭では良いパパであり、料理もし食事の後は茶わんや皿まで洗った。予想を裏切られて私はびっくりもしたし、このような家庭を築いている親分に親しみを感じた。

彼は一風、変わったところがあって「北海道に行くのが夢だ」と言って私に北海道での釣りや旅の話をせがんだ。私が十勝川源流で一時間の間にイワナを50匹釣った話をすると、彼は目を丸くして

「俺をそこに連れてってくれ!」と言った。

S02

それは次の年の夏に実現した。私はトムラウシで人に頼まれ、丸太小屋作りを手伝っていた。親分に電話すると

「そうか、そうか、ヨーシ!夏休みだ!子分達も連れてくからよろしく頼む」と言い、本当にやって来た。

夏の晴れた日に、トムラウシの山道をはるばると多摩ナンバーの白いほこりまみれのミニバスが走ってきた。親分と人形佐七、タカハシ、それに子分が5人乗っていた。車の後部には毛布やら炊事道具、テント、釣竿などが詰め込まれていた。

トムラウシは北海道の秘境と呼ばれている。私は彼らを十勝川源流に案内した。車で行ける所まで行き、その後はテントや鍋、食料、釣り竿をめいめいが背負って山道を歩いていった。中にはサンダル履きの者もいた。山は深く目的地はヒグマの巣でもあった。しかし、音をあげるものはおらず、これも私の予想を完全にくつがえすものだった(さすがのピラニア軍団もここでは音をあげるだろうと思っていたのだが)。考えてみれば、彼らは仕事がら車での長旅や野宿に慣れているのだ。

夕方に私達は十勝川源流の川岸にたどり着いた。川岸と言っても深い谷で、清冽な水が音を立てて流れる谷川のほとりだ。

皆は、親分をはじめキャーキャー言いながら荷物を放り出して谷川に飛び込んだり、川の中に顔を付けて水を飲んだりした。子分の中には「こんなキレイな水は初めて見た」と言う者もいた。「おっ!いるぞ、魚だ、魚だ!」と言う声もあちこちから聞こえた。

「暗くなる前にテントを設営し、薪を集めてキャンプの準備をしましょう」

と私が親分に言うと、彼はうなずき

「野郎ドモ、聞いたか、すぐにキャンプの準備だ!トメ、マツ、ケンは薪を集めろ、テツとタカハシは晩飯の支度をやれ!人形とヤマグチは栗岩さんを手伝ってテントを張れ!」

と怒鳴った。良く訓練された兵隊みたいに、子分達はキビキビと働いた。

テントを張ると言っても、そんな気の利いた物がある訳でもなく、大きな工事用の青いビニールシートが我々のテントだった。まず、三間×三間のビニールシートの四隅を固定する(石や立ち木を利用、ロープで縛る)。次にその辺の細い立ち木を2~3メートル位の長さに切って支柱を3、4本作る。これをシートの下に入れて要所要所に立てる。これでテントは完成だ。これは私がイランやアフガニスタンを旅している時に砂漠のベドウィン(遊牧民)から学んだ方法である。このテントは通風が良いから、中で焚き火が出来る。風や雨がひどい時は支柱の数を減らし、シートの縁を下げてやるだけだ。

来る途中の山道で、フキが乱暴に倒された所が何ヶ所かあった。ヒグマがフキを食べた跡だった。道の真ん中にてんこ盛りのヒグマのフンもあった。そんなのを見て、さすがの親分とピラニア軍団も青くなった。しかし「帰りたい」と言うものは一人もいなかった。私は万一のヒグマの襲撃に対する防備の対策は立ててあった。人数分の竹槍を作ってくるように親分に言っておいたのだ。S商事には竹の物干し竿がいくらでもあったのだ。タカハシは

「熊が来たら、くし刺しにしてバーベキューにしてやるぜ」

と言って、ガハハと笑い竹槍をしごいてみせた。私が

「熊の肉は美味いもんだ」

と話すと

「そいつはありがてえ」

と彼はごくりとつばを飲み込み、皆は笑った。

 


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