アフリカの旅 1-1

1998年5月20日

「プライド・オブ・ケニア」という名の、いささかくたびれたケニア航空1101便は、ガタガタと軋みながら朝の光の中を地上に舞い降りた。私は鳥籠みたいに狭い座席に体をねじ込んで一晩を過ごした挙句、やっと飛ぶ事から解放され、地獄から救われた思いだった。

ナイロビの空港は広々としたサバンナの中にポツンとある。少し遠くに、シマウマの群れやキリンの長い首が見える。空港はお世辞にも綺麗とは言えない。滑走路の向こうにはキリンや象などの野生動物が走り回っている。こんな国際空港も珍しい。東洋人の姿は皆無だった。

空港の出口には客を待ち受ける男達がたむろしていた。悪そうな奴も結構いる。みんな見事に黒い。その中でも一番黒い、太った足の男が私の方にやって来て「アー ユー ヒデヒコ サン?」と言った。ホテルから迎えに来たサミーだった。長年の旅の経験で用心深くなってる私は、「俺の名を知ってるという事は、この男が偽物じゃないって事か」なんて考えながら、彼の車に乗り込んだ。

車の運転手のジュンボはサミーよりも年上で、アフリカの田舎のオヤジさんという感じで好感が持てた。

サミーの方は金の事ばっかし考えてるような目をした男で、気が許せなかった。何も知らない旅行者をうまくだまくらかしてネコババしたり、リベートをごっそり頂いたりする調子のいいタイプだ。

ジュンボは運転しながら歌った。アフリカの動物の名前が次々に歌の中に出てくる。昔からある歌だと言う。眠くなるように単調な歌だ。そんな歌を聞いたり見たりして、子供たちは動物の名前を覚えるのかもしれないと思った。何かを喋るようにジュンボは自然に歌い続ける。歌う事に対する恥とかてらいとかかまえなど全く無いらしい。思った事をそのまま口にして歌っている感じで、私は羨ましいと思った。

空港から町に行く道は、この先に本当に大都会が存在するのかと疑いたくなるような、単調で寂しい道路だった。見慣れぬ木や草花が異国を感じさせた。それでも最後には、人ごみと車と高層建築のビルの谷間に着いた。

私の泊まるホテルは街のど真ん中のニュー・スタンレイ・ホテルだった。車が着くと、赤い制服を着た長身のボーイがサッと車のドアを開いて、レストランの奥にあるレセプションに案内してくれた。

このホテルはナイロビの高級ホテルの一つで、私には場違いな気もした(明日には安ホテルを探さねばならぬ状態なので)。旧英植民地風のロビー、レセプションも重厚でシックなムードを漂わせている。よく訓練されたマナーの良いスタッフを見ていると、私は、自分が一昔前のイギリスにいる様な感じさえした。

身長が2メートルもありそうな、金モールの入った赤い制服のボーイが、私を最上階の部屋(8階)まで案内してくれた。私は使い古したザックをボーイに持ってもらって、ピカピカの大理石の床を歩いて行った。エレベーターの中で「ジャンボ(こんにちは)」と言うと、長身のボーイは「ジャンボ・ブエナ」と人の良さそうな目で私を見て、真っ白い歯を見せて笑った。職業を意識せずに自分に戻った笑いであった。その笑顔に接して、私の今までの緊張は拭われた。きっとアフリカ人が好きになれるだろうと私は思った。

くたくたに疲れ切った体をベッドに投げ出し、安心感から綿のように眠った。

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