アフリカの旅 1-3

ホテルの近くのチャイニーズ・レストランでサミーと晩飯を喰った。

サミーが「アーチストなんて馬鹿野郎さ。でも俺に出来ん事をやっちまうからエレーと思ってはいるんだぜ。ミュージックは俺の命だ」と言った。その意外な言葉に私は思わず箸を止めた。サミーが少し好きになった。暗闇の中で見るとサミーの顔も同じくらい黒いので絶対見えない、話したり笑ったりした時は真っ白い歯が見える。

「じゃ、あんたは何が好きなんだね」と私が聞くと、
「サッカーと、それからアフリカのミュージックだ」と言ってから話を続けた。「サッカーのポジションは、俺は足が遅くて走るのが苦手だからずっとフルバックやってたのさ」彼はフォークとスプーンを忙しなく皿の上でカチャつかせながらひとしきり喋った。サミーは箸は苦手のようだ。

店は広く少し暗くて、中国料理のスパイスの香りがたっぷりと染み込んでいる。客の数よりウェイターの数の方が多かった。日本人旅行客の馴染みのレストランだが私のような質素な旅行者には普段は縁の無い所だ。どうせ明日はナイロビを離れるのだし、サミーともお別れだ。お別れパーティーといこう。料理はアフリカであっても中華料理は中華料理という感じで感心した。しかし、ライスはパサパサで箸で食べる事は不可能だった。私もサミーを真似てスプーンで食べた。

店内に居る客は15人くらいだが、そのうちの一組はファミリー。全部日本人だった。サミーが「あのファミリーはビジネスかなんかでナイロビに住んでるんだと思う。子供連れはみんなそうだ。他のはみんなサファリツアーだよ。あんたみたいに一人でサファリと関係なく、ここからウガンダへ旅に行く人間なんていないよ。変わった日本人だね、エー」と言って笑った。

食事の後、サミーの子分か何からしい兄ちゃんの白タクに乗って郊外のディスコに出かけた。私はサミーを信用してなかったので、多少の不安はあったが一緒に行く事にした。車はやっと動くような代物で、走るとすごい音がした。

ディスコはエアポートの近くの平原の中にポツンと建っていて、近づくにしたがって、風に乗って聞こえてくるアフリカンミュージックの音が次第に大きくなった。建物の屋根は藁葺き、垂木は天然の丸太、釘は1本も使ってない、大きなキノコみたいな形でそれが幾つか肩を寄せ合ってつながり、ほとんど窓というものは無く吹き抜けに近い。床は厚板を並べただけ、ステージの前には踊り場がしつらえられ、何人かの黒人が踊っていた。いかにもアフリカらしい感じのするディスコで、曲もリアルアフリカンですごい迫力があった。建物を揺るがすサウンドも藁葺きの屋根と柱だけの構造であるせいか、ドンと来てフワッと抜けるようなサウンドで快い。

テーブルには幾組かのカップルと仲間連れがいた。観光客は一人もいない。私にはTシャツの上にスポーツシャツでちょうど良い気温だったが、彼らときたら、セーターの上にオーバーや防寒ジャケットを着込んでる。中には毛糸の帽子までかぶった人もいた。

エキサイトな音楽の洪水の中にいるのに彼等はクールにふるまっている。この連中はナイロビのニューヨーカーとでも言うのか?黒人は皆、すぐに拍子をとって体を揺らしたりするとばかし思ってた私には驚きだった。そのうちステージの上でライブが始まるとディスコも色彩を帯びて、いいムードになってきた。

ステージの上ではボーカルが3人、ギター2人、ベース1人、ドラム1人、サックス1人。ナイロビでも一流のバンドだとサミーが教えてくれた。ボーイにタスカ・ビールを注文して渇いた喉を潤しながら、ステージを見守った。ステージの上ではボーカルの3人組が巧みなディスコダンスを始めた。三人三様の踊りで、個性的で素晴らしかった。さらに、その中にディスコクイーンの黒人女性が加わるとよりエキサイティングになった。メチャクチャかっこいいのだ。

客も刺激されて、次々にステージの下の踊り場で踊り始めた。あんな厚着でよく平気だなと私はショックを受けた。一人一人の踊り方が工夫され異なっていて、見ていても面白かった。日本のディスコは全員でマスゲームでもやってるみたいでうんざりだ。黒人は天性の踊り手だというのは本当だった。

ステージが終わると、ステージの上で踊っていたボーカルの青年が我々のテーブルにやってきてサミーに挨拶した。そのあと私と握手して「素晴らしかった」と言うと白い歯を見せて笑った。サミーとは古い付き合いのようだった。ボーイにタスカビールを注文し彼に勧めると、彼も飲みながら色々な話をしてくれた。彼はマサイ族だと言って笑った。いい顔してる。曲は東アフリカを中心にやっているらしい。色々なミュージシャンの名前が次々に出たが、私には知らないものばかりだった。

そのあと再びステージが始まり、私もサミーと一緒にダンスに加わった。周囲があんまり上手いので気後れしたが、いつもの如く旅の恥はかき捨て的図々しさで、半分は運動だと思いながら踊った。サミーは短足のくせに、結構かっこよく面白く踊った。あの仏頂面はどこにも無く、嬉々としていた。踊りを見てると、サミーがまた少し好きになれた。
1-3サミーに言わせると私はよほど変わっていて、暇な日本人らしい。サミーもいつも日本人観光客の相手をしてプライドが傷つけられるのだと思った。生きるために必死で調子よく掠め取ってるんだなーと思うと、彼との距離も近くなった。サミーは奥さんと子供が2人いると言った。子供の話をすると、いつも仏頂面してる彼が嬉しそうにペラペラ喋った。

早く帰る予定が11時を回って街の周囲は危険に満ち満ちて来る。強盗団のお出ましだ。サミーの子分が白タクで迎えに来た。途中、サミーが自分の家の前で降り、私をホテルまで送るようにと子分に言って消えた。差し詰め、日本の今では滅多に見ないオンボロ長屋が彼の家族がいる所なのであった。サミーが「マイ ジョブ イズ ベリー ハード」と言ったのは嘘ではなかった。

私はなんだか彼が急に気の毒になった。アフリカの旅からナイロビに戻って今度会う時は友達になれるかもしれないと思った。そしてまたあの、黒人には見られない仏頂面は日本人旅行者から感染したに違いないとも思った。


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