アフリカの旅 2-2

私が朝食をしていると、約束より少し遅れてサミーがやって来た。彼は勝手にフルーツサラダとマンゴージュースをボーイに注文し、例の如く仏頂面で「あそこの店でマラリアの薬を買えるぜ」とホテルのすぐ横にあるドラッグストアを教えてくれた。

私はそこでLARiAMという薬を買った。1週間に1回1錠飲む薬だ。これは予防薬で、飲んでいれば大丈夫という保証は無い。体のコンディションと栄養を十分に取り、たっぷり眠る事の方が大切だ。体調が悪かったり、疲労が激しい時はマラリアに罹りやすくなる。汚染地区に入る1週間以上前から服用し、帰国しても1ヶ月間は飲み続ける必要がある。マラリアには5つのタイプがあり、潜伏期間も10~30日と差がある。一定の日数間隔で40℃くらいの高熱を発する。サミーも子供の頃かかったと言っていた。

私はサミーの分を支払い、そのあとマチャコのバス乗り場までサミーがタクシーで送ってくれた。

ナクル行のプジョーの運ちゃんはサミーを見ると握手し、普通の料金でチケットを売ってくれた。ナイロビからナクルまで所要時間は2時間。280シリングだった。バスだと6時間位はかかる。客が一杯にならないと、いつ出発するか分からない。

サミーは「気を付けて行けよ。金を盗られない所にしまっとけよ。やたらにスリが多いからくれぐれも用心するように」と何度も言ってから「旅の幸運を祈る」と言って消えた。

それにしても、私がプジョーに乗った場所はすさまじい熱気と体臭。娼婦と泥棒とスリに溢れる大都会のジャングルとも言うべき市場のど真ん中だった。夜は特に危険で、サミーに絶対に行くなと教えられた場所だった。私は貴重品を入れたデイパックを足元に置き、車から一歩も出ずに周囲を観察した。

絵描きにとって胸がワクワクする場所だった。ぶら下がった真っ赤な肉の塊からは血の滴が地面にポタポタと落ちている。肉屋のオヤジと客が大声で値段の駆け引きをしている。足を引きずり長い棒にすがって歩く痩せた男、アラビア人、ピンクの布で顔を包んでる美しいモーロ人の女、空の荷車と荷車引きの男たち。通路は路地で凸凹。その中を、野菜を満載したトラックがよろける様にしてノロノロと動いている。

通路は人間で一杯。トラックの過ぎた後はすぐに人で埋まる。乞食の男、めくらの女、街角にたむろする娼婦(昼間は暇らしく、茶店や食堂の中で女同士お喋りしたり昼寝している)。様々な野菜、果物、チャパティ、衣類、雑貨、ここには何でもある。麻薬から密輸のピストルまでそろっている。

このバザールの生み出すカオス、猥雑、それはそのまま、動き回る血の通った芸術でもある。

しばらくしてプジョーが出発。街を抜けて郊外に出るとプジョーはぐんぐんスピードを上げ、100㎞/h以上のスピードで(メーターが壊れていたのでどのくらいのスピードかわからなかった)飛ばした。

2-2道路はアスファルトとは名ばかり。凸凹の大穴がそこいら中に開いている。これでも一級国道なのだ。まるで機銃掃射でも浴びた様な道だった。それらを避ける為に、運転手は反対側車線を平気で走り続けたりする。追い越し、割り込みの連続。人や牛がしょっちゅう道路を横切る。こんな中をよくこのスピードで走るぜ、ヤメテクレ!

プジョーは速いのが条件。バスの1/3位の時間で目的地に行ける。値段はバスの2倍くらい。言うなれば特急である。5人乗りサニー・バンみたいな車だが、10人くらいは詰め込む。上りではさすがにスピードが落ちる。これをリカバーする為か、下りになったら気違いじみたスピードで走る。乗っていて生きた心地がしなかった。しかし他の客は運転の経験が無いのだから、私以外はのんびりしたものだ。クラッシュしてつぶれた車や動物を所々で見かけた。

時々ドライブインやホテルを見かける。それは名ばかりで、軒の低い木造のバラックにペンキを塗った程度の質素なものだった。電気も無かった。田舎では掘立小屋程度の人家が多い。大きなマンゴーの木の下では、人々が日陰で涼んだり昼寝している姿が見られた。

ナクルに着いた時は、さすがにホッとした。車が停まった場所はまたもやバザールの中で、広い大地を遮るものもなく、太陽が照り付けていた。

メインストリートの両側にはコンクリートの建物が並んでいる。せいぜい3階建でペンキを塗りたくって、派手な英文字の看板がアクセントをつけている。100年くらい前の英国風建物である。レンガ造りでないので安っぽく見える。まるでロンドンのケンジントンやトッテナムコート辺り、あるいはシェパードブッシュのストリートのミニチュア版、それも安っぽいバラックみたいな建物で、出入口や軒下には人々が思い思いに立ち話をしたり、座ったりしている。黒人文化、そんな言葉が頭に浮かんだ。


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