アフリカの旅 2-3

私はプジョーの中から自分のリュックを引っ張り出してマタトゥ乗り場の雑踏の中に降り立った。

風が吹くと、黒い埃が舞い上がった。ドス黒い煙をまき散らしながら、マタトゥやオンボロバスが積み切れないくらい人と物を乗せ、よろける様にして次々に出てゆく。そして一方からは他の町から辿り着いたマタトゥやミニバス、そして人間が流れ込んできた。その中を物売りが練り歩き、大声で叫んでいた。レゲエの音楽が近くのミュージックショップから物憂く流れ、広場を満たしていた。

どの位の数の部族がここにいるのか想像も出来なかった。マサイの戦士みたいな男もいた。カラフルな民族衣装の女達。一昔前のアメリカの南部の写真に参上してくる様な、古ぼけたジャケットを着てつば広の帽子をかぶってる黒人もいた。多種多彩で、単一民族、単一国家から来た私は目がクラクラした。

気が付くとプジョーはどこかへ消え、一人の若者が蝶のように私に纏わりついていた。彼はジミーだと言った。私がペッカーズホテルへ行きたいんだと言うと彼は連れて行ってくれた。

マタトゥ乗り場から歩いて5分くらいで着いた。下がレストランで上がホテルだった。クロークにいた男は、白いシャツを着て金縁の眼鏡をかけた知的な若者だった。大学ぐらい出てるだろうと思った。あるいは学生かもしれない。ケニアのホテルには珍しい事だが、パスポートの提示を求められた。部屋はシングルで500シリング。一応シャワールームがついていて、水洗トイレも備えられていた。部屋の中は少し暑く、蚊が一匹飛んでいた。

窓のカーテンを開けると下は街路で、人間と手押し荷車が動いていた。トマトやジャガイモやスイートポテトやフルーツの山の後ろに売り子が座り込んで客と掛け合っていた。真向いのカフェの前には暇そうな男達がたむろしてぼんやり通りを眺めたり、世間話をしていた。そのすぐ横の空き地では生きた鶏を売ってる女たちがいた。私の絵のモチーフにぴったりだった。

2-3

ジミーは外で待っていた。私が「昼飯食うか」と言うと「O.K!」と言って白い歯を見せて笑った。ジミーは一見能天気な奴だが、油断のならない少しワルという印象も受けた。向こうから近づいてくる奴はそんな者がほとんどだ。しかし、こっちもそれを知っていて利用する。そして相手は私の財布を当てにする、もしくは狙うという訳だ。

レストランに入り、テーブルに着いた。「何が美味いんだね?ここは」とジミーに聞くと、「そうだね、ここのチキントマトスープとマトンの煮込みは最高さ」とジミーが教えてくれた。私達はそれらを一皿ずつ取り、ジミーはチャパティ、私はライスを注文した。食事が出来るまでコーラを飲みながらジミーと話した。

「ナクル湖行の車はどこから出るんだね」
「後で連れて行ってあげるよ」
「ウーン、お前はいくつなんだ」
「俺は18だ。あんたは?」
「俺はもう54さ」
「エー!嘘だろ、30以上には見えないよ」

ジミーはびっくりしたらしかった。実際、黒人の方が老けて見える。ジミーの親父は40前だが私よりずっと老けて見えると言った。(ついでにひどいオヤジだと付け加えた)

これは、その後どこでもそう言われた。私の齢を知ると彼等は心底びっくりしていた。ここでは私もまだ若者ってわけだ、と思うと可笑しかった。まして、リュックなどを担いで一人で旅しているのだから余計にそう思われるのかもしれない。

料理が運ばれてきた。なるほど、なかなか美味そうだ。骨付きのチキンがゴロゴロ入ったトマトスープにピリピリをかけて、食事に取り掛かった。ジミーの注文したマトンの煮込みも美味そうだ。少し食わしてくれと言うと、ジミーはマトンのかたまり(骨付き)を私の皿に入れてくれた。私はチキンのかたまりを彼の皿に入れてやった。

ジミーはウェイター連中と知り合いらしく、握手していた。ハイスクールの同級生だったのさ、と説明した。

料理はなかなか美味しかった。「チャパティもなかなか美味いんだぜ」とジミーがちぎってくれたのを食べてみたが、南インド風の感触と味があった。インドの食文化と英国の食文化が深く入り込んでいる。インド料理店も多く、大抵どこでも美味しい。

ただ、この国では味付けはインド料理でも少ししか辛くないから、私には物足りない。英国文化の影響で、香辛料が抑えられているのではないかと私は思った。フライドポテト(チップス)を多食するのも、まさにそのせいである。私も英国に居た時、人々が明けても暮れても山のようなチップスを食べるのを見て、いささか呆れてしまった思い出がある。チップスは、ここでは主食に近い。チップスだけで食事を済ませてしまう事も多い。

この他に主食としてはアフリカの物としてウガリとワリ(プレーンライス)、煮豆ゲゼリがある。ウガリはトウモロコシの粉、キャッサバの粉、小麦粉などを捏ねて蒸したもの。白っぽい色をしている。食べ方はチベットのツアンパと同じく、ちぎってから手で丸めて団子にして副食と一緒に食べる。これはもちろん右手しか使わない。日本で食べる蕎麦がきと同じ食感と味だ。

金を払って外に出た。ジミーも付いてくる。慣れるまでジミーに案内してもらう事になる。一人だと引ったくりや強盗に遭う危険が増大するからだ。

「音楽好きかい?」と聞くとジミーは
「大好きさ。ディスコミュージックは最高だぜ」と嬉しそうに笑った。笑うと馬面になるところが憎めない。ジミーは自分はキクユ族だと言った。
「じゃ、夜ディスコに一緒に行くか」と言うと彼は
「もちろんさ」と小躍りしていた。

私は部屋に戻りシャワーを浴びて、旅の埃を洗い流し、蚊取り線香を点けてからベッドの上で眠った。時差ボケと連日の移動で体は疲れている。すぐに眠りに落ちた。


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