アフリカの旅 3-2

起きると2時頃だった。
私が「ランチを食べたいけど、この辺にレストランはあるだろうか?」とアンに聞くと、
「肉がいいの?魚が食べたいの?」と逆に聞かれた。
「うーん、魚が食いたいネ」と私が答えると
「それじゃ、美味しい所知ってるからもう少し待って、連れてったげるわ。私もこれからなのよ」と彼女は言った。

彼女は再び帳簿をつけ始めた。ロビーのソファに座ってタバコをふかしながらアンの仕事が終わるのを待った。

アンの女友達のジョイも一緒に行く事になり、すぐに3人でレストランに昼食に出かけた。着いてみると、そこは私が昼前に着いて遅い朝飯を食べた、ニュー・ビクトリア・ホテルのレストランだった。店の人とアンとは旧知の知り合いのようだった。さっきの東洋人がアンと一緒に再びやって来たので、彼は目をパチクリしていた。

私が「ここでもう食べたよ」と言うと、アンとジョイは「エー、キスムに来たばかりでよくこの料理の美味しい店がわかったわね」とびっくりしたようだった。確かにこの店はその後で行ったどの店よりも美味しかったし、アンたちもそこでたまに食事をするのが楽しみであるらしかった。

アンが薦めてくれたのはテラピアの空揚げにマッサラソースをたっぷり掛けたものだった。この店のはよそと違って、ソースで多少煮込んで出してくる。3人とも同じ物を注文した。テラピアの白身の肉にインド風のスパイスよく効いたマッサラソースがしっかり染み込んでいて、生臭くなく、素晴らしく美味しかった。ソースはマッサラ(ミックススパイスのこと)とトマトと玉ねぎの微塵切りをよく炒めて煮込んだものらしかった。添え物に生の玉ねぎと人参とキャベツの千切りを合わせたものが付いてくる。これを上からバラバラと料理に振りかけてから、インドカレーを食べる要領で右手でおかずとご飯をまぜ合せながら口に運ぶ。当然食事の前と後は手をよく洗う。左手は決して使わない。

私がインド式の食事法で器用に右手だけで食べるのをアンもジョイも感心して見ては2人で顔を合わせて笑った。

3-2

「あんた、食べ方よく知ってるのね」
「日本でインドカレーの店やってるんだ」
「そーなの、道理で知ってる訳ね」
「じゃ、あんたはレストランのオーナーだから金持ちね」
「冗談言うなよ、オレん所の店は冬になったら客なんか一日に2、3人しか来ないんだよ。俺が金持ちだって!びっくりするよまったく」
「でも、私達に比べたら日本人は金持ちよ」
「車持ってるの」 「イエス」
「テレビ持ってるの」 「イエス」
「ホラ、やっぱり金持ちじゃないの。キスムの町で車持ってる人はすごい金持ちなのよ。テレビだって、少しの人しか持ってないのよ」とアンは言った。
私は考え込んだ。「でも君達は、僕達が持ってないものを持ってるよ」
「何なの?それは」
「ゆっくりと流れる時間だよ」
「ポレポレのこと」
「そうさ、僕が子供の頃、日本にもポレポレがあった。でも、お金と引き換えにポレポレを失ったんだ」
「でも、ケニヤの経済発展を阻んでるのはポレポレなのよ」
「でも、ポレポレを捨てて金を手に入れれば日本と同じ事になる。忙しくってゆっくりものを考えたり、昼寝したり出来なくなっちゃうんだよ。人と人の会話も失われてしまうんだ」

アンやジョイにそれを理解させる事は不可能だった。金持ちになり、失ってみて初めて分かる事なのだ。失ったもの、それを求めて私はアフリカに来たのだとその時に気づいた。私はアフリカで何かを発見し持ち帰る、そんな漠然とした思いを抱いてはいたが、それが何であるか、その時まではよく分からないでいた。アフリカに来て、私は失ったものの大きさを、今まざまざと感じている。

料理が出来るのに時間がかかりすぎると言って怒る人は誰もいない。店ではつり銭など用意してない事が多い。つり銭が無いと、店員が金を崩しにどこかへ行ってしまい、しばらく戻って来ない。そんなのは当たり前だ。困った時は助け合う。それが人々の気持ちなのだ。建国の父、ケニヤッタはその精神を独立のバネに使った。

食事の後で、私がトラベラーズチェックの両替をやってる銀行を知らないかと聞くと、アンが「連れて行ってあげるわ」と言った。再びアフリカ式で、金持ちの私が食事代を全部払った。私が煙草が無くて困っているとアンが私に煙草をくれた。ギブ&テイクだ。

若い時の旅は金がギリギリ、食べて動き、移動する最低限しか使えなかった。だから、こんなアフリカ式なんてのは論外であったし、彼等は私が貧しいのを見て、お茶や団子などを分け与えてくれた。自分より貧しい者と自分より金持ちとを分けて考えているのだ。自分より貧しい者には与え、金持ちには払わせる。もしくは与えない。この考え方は、ケニヤッタが国連会議でやった有名な演説と骨子は同じだ。私は金持ちだから、今のところ、たまにシガレットを一本お返しにもらえる程度とでも考えるしかない。

「金は高きより低きに流れるべし」 これは自明の理である。低きより高きに流れるところに問題があるのだ。

チンピラに金を奪われないように、アンとジョイが銀行で両替した後もホテルまで送ってくれた。もう夕方近かったが日差しは強く、ホテルのロビーでソーダを飲んだ。

5時になるとアンとジョイは家に帰った。ホテルには年配のボーイと若いボーイが残り、夜になると入り口でガードマンが番をする。ピストルは持ってなくて、棍棒みたいのを一本持ってるだけだ。治安はそれほど悪くないようだ。ガードマンがピストルやショットガンを持っている所は治安が悪いのだ。私は部屋に戻り、シャワーを浴びて眠った。急に気候が暑くなったので体がだるい。


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