アフリカの旅 8-2

私は意を決し、ここから出来るだけ遠ざかる事に決めた。荷造りは5分とかからなかった。

私が玄関を出ると、アンが慌てて追ってきた。
「どうしたのよ、いったい何があったの?」と彼女はびっくりして聞いた。私達はロビーに入り、椅子に掛けた。

「アン、実はね、昨夜雨が激しくて僕はレストランへ行く事が出来なかったんだよ。ニュー・ビクトリア・ホテルに移動する事にしたよ。あそこは料理の美味しいレストランが階下にあるし、何かと便利なんだ」と言った。
アンは怒ったように、「ここにいてちょうだい、夕食は弟にでも運ばせるから。それにあそこは町の真ん中でうるさくてあんたは寝られないよ」と言った。
「それに今日のカカメガ行はどうなるの?もうすぐジョイも来るし、タクシーの手配もしてあるのよ」と、彼女は続けて言った。
「僕はニュー・ビクトリア・ホテルに部屋を借りたらすぐここに戻ってくる。歩いても10分とはかからんからね、ノープロブレム」と私は言い、びっくりしてる彼等を残してニュー・ビクトリア・ホテルまで歩いた。アンは追っては来なかった。

私は、ニュー・ビクトリア・ホテルの前で座って世間話をしている何人かの若者に「ナイロビに行くんだが、タクシーはないか?」と聞いた。彼等は、ここにはタクシーは無いと首を振った。アンが私の本意に気付いて追ってくるかもしれないと思うと焦った。その中の人の良さそうな若者が、「ついて来いよ、俺がマタトゥ乗場に連れて行ってやるぜ」と立ち上がった。この男なら心配ないだろうと考えて、私は一緒に並んで歩いて行った。

彼は、私が迷子にならない様に私の手を掴んで連れて行ってくれた。彼は身分証明書を出して「怪しい者」ではない事を説明した。それは怪しいという事に他ならないが、彼はマタトゥ乗場と反対方向に私を引っ張って行こうとはしてなかったので大丈夫だと踏んだ。私は街の地図を頭に叩き込んでいたし、キスムに一週間いる間に、何がどこにあるかがほぼわかっていた。

私達はやがてマタトゥ乗場に着いた。私達は歩きながら、
「俺の名前覚えてくれたか」
「ああ、ジムだろ」
「今度いつキスムに来るんだ」
「わからんね」
「キスムに来たら俺はいつもあそこにいるから、俺の名を忘れるなよ」
「うん」
そんな事を話した。

ジムはナイロビ行のマタトゥを探し出してくれ、運転手に値段を聞いて550シリングだと教えてくれた。私は、ジムにお礼に200シリングを上げた。彼は飛び上がるようにして私と握手し、「祝福を」と言って人ごみに消えた。

マタトゥは快速の6人乗りのプジョーだった。バスの1/3の時間でナイロビまで行く。座席が全て埋るまで出発しない。その間私は顔を伏せて、アン達が万が一追って来ても見つからないようにした。私は多少ノイローゼに違いない。しかしその時は夢中だし、心臓がドキドキし、早くこの町から逃れたい一心でマタトゥの出発をジリジリしながら待った。狭い車内は人いきれでムンムンしており、汗が滴り、雑踏が車を包んでいた。物売りが絶えずやって来て、車の中に顔を突っ込んで時計やアクセサリーを売りつけようとした。

10分ぐらいして、マタトゥはナイロビに向かって出発した。市内を抜けるまでは顔を見られない様に伏せていた。やがて車が郊外に出てグングンとキスムが遠ざかって消えてしまうと、私はホッと胸を撫で下ろした。

8-2ナイロビからナクルへ、ナクルからキスムへ、キスムからナイバシャへと、私の逃げるような旅は続いた。私がアフリカ人を、アンを信じない限り、私はアフリカの中を逃亡者の様にさまよう事になるだろう。一ヶ月はあまりにも短い。私がやっとアフリカに馴染む頃に私はアフリカを去らねばならないのだ。その時、私はアフリカにどんな思いを抱いて帰るのだろうかと思った。帰れるのか?とも思った。

つくづく私は孤独を感じた。だが泣き出す事もなかった。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

Current day month ye@r *