アフリカの旅 17-2

3時過ぎに起き、下のレストランに行ってみた。こじんまりしたレストランで、白人の若いカップルと黒人のグループが一組いた。私はコーヒーを飲みながら日記を書いた。

ふと目を上げると、隣の席に黒人の女性が座って意味ありげにチラチラと流し目を送ってきた。「ノー、疲れてるので結構」と言うと彼女は笑った。アフリカでは私は30代に見られている。そのうち、彼女の馴染みらしい白人の若い頭の禿げた男が彼女の横に来てするりと座ったので、上手い具合に言い寄られずに済んだ。私はコーヒー代を払って町へ出た。

今日はビューティフルサンデー。隣のアフリカン・バーでは、酔った黒人が大声で歌って騒いでいて賑やかだった。そこを過ぎて、ケニヤッタ・アベニューに出て、地図を見ながらケニヤ航空のオフィスに行った。場所を確認して引き換えし、町の中心部、ヒルトンホテルの方へ向かって歩く。リュックを担いでないし、だいぶ私もアフリカナイズされたか、あれほどしつこく言い寄ってきたコミッションボーイも付きまとわなかった。日本語でコンニチハ、サヨナラと言ってたが、構わずに歩いた。

どこの店も、銀行も閉まっている。しょうがないのでホテルに戻り、ホテル横のアフリカンレストランに入ってチャイとマンダジを頼んだ。チャイは13シリング、マンダジも同じ13シリングであった。ホテルのコーヒーは40シリングだ。靴の底に隠したケニヤシリングの事を思い出した。とにかく、あと300シリングしかなかったので助かった。ここには2日泊まる事にして、もう1日分払った。

領収書をくれと受付のオジさんに言うと、彼は何か言いながら紙切れを引き出しにしまった。後で貰ってないなんて言われることもしばしばあるので、私はその紙切れを見せてくれと言った。彼は見せてくれた。「ここに800+800と書いてあるだろう」と言ってから、急に怒り出して「俺を信じられないのか?」と言うわけだ。「普通はどこでも金を払ったら明細をくれるよ」と言っても通じなかった。

正直な男を怒らせてしまったようだ。私は謝り、タバコを一本勧めた。彼はタバコは吸わないと言った。アフリカ人にはそういう人が多い。肺がんが恐ろしいからではなく、宗教上の理由からである。彼はそれでも気を直し、「お前は日本人だからな…」と言った。

外国では、英語が下手くそな日本人は白人よりも損な目に遭う。英語が出来なければ虫けら同然だ。白人に比べてあっさりしているのと、金離れが良い事も災いしているのだろう。

私は部屋に引き上げ、熱いシャワーで汗を流してから手記を書いた。

ザーという音がした。外を見ると雨だった。毎日ではないが、今頃はまだ雨季らしく、夕立が降る。

夜になって、私は飯を食いに下に行った。ここのホテルの飯は、メニューを見た限りでは英国料理で私には興味が無い。ロンドンにいた時は、英国料理から逃げ回っていた苦い記憶がある。

隣のアフリカ料理店に行った。しかしもう閉まっており、その隣の少し怪しげな雰囲気のレストランに入ってみた。この店には黒人以外は足を踏み入れた事がないとでも言うように、客が私を振り返って、驚いた顔でじっと見ていた。悪意は感じられなかった。私は一つのテーブルに着いた。

すぐに、黒い上着を着た娘が来て色々と聞かれた。何を言ってるか分からない。彼女は酔っていた。彼女は私を引っ張って、さっきこの店に入る為に通った、牛肉の大きな塊がぶら下がっている所に連れて行った。まるで屠殺場だ。食欲が落ちた。彼女は肉をいくら買うか?と聞いていたのだ。私が1/4キロと言うと、そこにいた男が肉を切り取り、量りではかって70シリングだ、と言うので払った。女は肉の皿を持ってどこかへ消えた。私はテーブルに戻り、ここが焼肉ハウスである事に気付いた。肉が料理されるまでの間、テーブルで待つ事になる。

17-2さっきの女が来て、私のテーブルに座った。ビールを飲むか?と言うので、ウンと言うとタスカビールを隣のバーの方から持ってきた。値段を聞くと60シリングだと言う。ケンバシホテルより10シリング安い。一人で飲んでも面白くないので、飲むかと言うと「飲む」と言ってバーの方へ女は歩いて行った。帰って来た時には、自分のビールを持っていた。アフリカでは手酌が基本で、人のビールは飲まない。コップは使わずボトルのままラッパ飲みだから、相手の人数分を頼まなければならないのだ。1本のビールを二人で飲むという習慣が無いのは何故か、よくわからない。

そのうち、会計をやってる女が来て(こっちは素面)、彼女の横に座った。心配して様子を見に来たのだと思う。なかなか利発そうな娘だった。キクユ族だ。「あの人、友達だけどもう11本目よ」と言った。

しばらくして料理が来た。ボコボコの大きなアルミの皿に、トマトで味付けした茹で肉が入れてあった。何となく犬にでもなったような気分がした。「これは焼き肉じゃないのか」と文句を言いたかったが、後の祭りだ。あの酔った女が、間違って注文したらしい。

女は多分、店の常連か非番の店員か、でなきゃマラヤ(売春婦)だ。

肉は焼いた方が美味いと私は思う。肉だけじゃ腹が持たないのでチャパティは無いのかと聞くと、ムテカしかないと言う。ムテカとは食パンの事だ。ハーフかと言うのでウンと言うと、一斤ほどのパンの塊を持ってきた。パンの半分と1本のビールと肉が一皿、これが今日の私の晩飯だった。

私は残りのパンの塊を持ち、ビール代と肉の料理代(20シリング)を払って外に出た。さっきバーの前で踊っていた乞食の男にパンを上げた。男は大きな声で「ありがとう!」と言った。私は身につまされるような感じでホテルに帰った。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

Current day month ye@r *