マジャールの残影 2-2

宿が決まると、案内所のマダムは市内の観光地図を一枚私にくれた。そして、そこにある宿の場所に赤い丸印を書き入れて道順を説明してくれた。

今は昔と違って、英語がどこでも通じるので楽だ。昔来た時は、インフォメーションを一歩離れたら英語は全く通用しなかったのだ。あの時、独語が喋れぬ私は一度にオシとツンボになってしまった気分がした。大いに困ったものだった。今は楽になった。

マダムに教えてもらったとおり、ヒルトンホテル前のエアターミナルセンターでバスを降りて、地図を片手にテクテク歩いた。曲がりくねった建物の谷間を縫って、自分の勘を頼りに歩いてゆくと15分くらいで着いた。

入口のホーンのボタンを押すと、英語で

「どちら様ですか?」

と聞かれた。私は日本人のツーリストだと告げた。何の応答もない。悪戯だと思われたか、それとも全く相手に通じなかったのだろう。私は

「エアポートのインフォメーションで、こちらのペンションを紹介頂いた者ですが」

と英語でもう一度話した。相手はそれで理解できたらしく、カチッと音がして入口のドアが内側に開き、若いメイドさんが目の前に立っていた。

玄関の鍵と部屋の鍵を渡された。以来、鍵との格闘が始まったのだ。ヨーロッパはどこでも鍵が掛けてある。玄関はもちろん、家の中でさえ部屋のドア、キッチン、バスルーム、戸棚から冷蔵庫に至るまで鍵が付いている。

戸締りが滑稽なくらい厳重で、日本から来ると些かアホらしくもなるし、ウンザリさせられる。どこかで誰かがカチャカチャと、鍵を開けたり閉めたりする音が一日中聞こえる。

そこまでしなければ生活できぬとは、不自由千万だ。でも、それがヨーロッパなのだ。

部屋は狭かった。それでもツインベッドと箪笥、机、洗面台、パネルヒーターが付いており、暖房がよく効いていて暖かかった。

ベッドに身を投げ出すと、日本を出発してから今までの緊張から解放された気分だった。そのままうとうとして、しばらく眠ってしまった。

hungary2-2


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