マジャールの残影 6-2

ハンガリーについて言えば、私の知識はせいぜい音楽家のリスト、ジプシーバイオリンにハンガリアンダンス、それに最近読んだ「悪童日記」の著者アゴタ・クリストフがハンガリーの出身である事くらいで、まったくお寒い限りである。

そんな訳で正直、生まれて初めて見たブダペストの街の壮大とも言える美しさには度肝を抜かれてしまった。

しかし、バスから降りてバスターミナルの建物の中に入ると、床や壁は薄汚れていた。道路のゴミも目立つ。かつての社会主義国家の特徴とも言える怠け癖が染みついている感じだ。

ハンガリーは、東欧の中では共産主義からいち早く修正資本主義に転じ、社会主義から自由主義へと転換した国である。しかし、まだどことなくぎこちない感じだ。人々の服装も野暮ったい。膨らんだコートに折り目の無いズボン、ジーパンというスタイルが多い。スーツ姿の人は非常に少ない。

上と下にかなりの格差があり、中間層が見当らない。労働者とエリートしかいないような印象を受ける。中流階級が少ないという事は、経済的にも遅れているという事だろう。

ふと気づくと、バスから降りて2、3分もしないうちにウィーンから一緒に乗ってきた乗客の姿はどこかに消えてしまい、ウロウロしているのは取り残された私達二人だけだった。みんな、迎えに来たホテルの人間や家族と共にさっさと行ってしまったのだ。

寂しい限りだ。私達は今夜泊まる当てさえ無かった。

とりあえず構内の両替所に行った。窓口でトラベラーズチェックを両替しようとすると、横から袖を引っ張る者がいる。トレンチコートを着たジャン・ギャバン風の男だった。100ドル20000Ft(フローリン)でどうだと持ちかけられた。闇ドル屋の登場だ。7年前のインド以来の登場である。

私は過去15年間も世界を股にかけて放浪してきた人間だから、自慢じゃないがこういう手合いとの付き合いは長い。レートが2倍くらいなら、リスクを踏んでも、ま、良いかとなるが、奴さんのレートは1.2くらいでとても話しにならないので断った。

とにかく、ハンガリーのブラックマーケットの事情をある程度知ってからでないと手を出せない。騙されるのが落ちだ。という訳で、私は袖を引く男を尻目に両替所できっちりと真面目に行儀良く、取り敢えず200ドルをフローリンに替えた。

男は諦めたか、振り向くともうそこにはいなかった。

なんとなく面白くなってきた感じだ。危険の臭い、赤信号、そういうものがない事には吾輩は旅をしている気がしないのだ。

hungary6-2


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