マジャールの残影 19-3

夜の9時頃に町へ散歩に出た。まだ宵の口。ストリートはそぞろ歩く人々や、カフェテリアやビストロやレストランの前のテーブルに陣取った人々で一杯だった。

ビルの片隅で老婆が花を売っていた。フミコは100Ftで赤いライラックの花を買った。

私達の使わなくなったセーターやズボンを彼女に上げた。初め彼女は私達を物売りと思ったらしく、いらないと首を振ったが

「そうじゃなくて、良かったら上げます」

と言うと分かったらしく、彼女は受け取ってくれた。ここでは物は大いに大切にされ、市場にも衣類は中古品が出回っている。

帰りしなにビアホールに入る。ここの生ビールは大変美味しい。ロック系のミュージックが店を揺さぶっている。若い男女で一杯だ。

この店は私達のホテルのすぐ裏手にあって、時々行った事がある。生ビールの中ジョッキとオレンジジュースで200Ft(160円)くらいだ。私達には安いけど、ここの人達にとっては決してそうでもない。三木君の話だと、月給は5~6万円くらい。それでも良い方だという事である。

マイカーが普及し始めている。日本製の車も多い。他にはドイツ車が多い。1970年代、私の給料もそれくらいだった。車を持つのが若者の夢だった。そして少し無理すれば車を持つ事が可能になった時代でもある。ハンガリーはちょうどあのころの日本と同じ経済力のようだ。

これも三木君の話だが、ここでは中国人は嫌われており、日本人は逆だと言う。だから、日本人であることをアピールした方が安全だし、嫌な思いもしないで済むという事だ。三木君はニコンの大きなカメラをぶら下げて歩いていた。これだと日本人だと思われるらしい。スーツを着れば完璧だ。

最近ブダペストでは、日本人が中国人と間違われて、スキンヘッドの右翼にバットで殴られて死んだという話である。なんとしても、嫌な話だ。

私なんぞは、トルコ料理店のボーイに

「あんたはヂンギス・カンの息子か」

と聞かれたくらいだから、一生日本人だとは思ってもらえそうもない。しかし、どう見られようが構わない。日本人なのに、日本人に見せようとするのも馬鹿らしい。

また、日本がアジアナンバーワンとする考え方も嫌だ。どこの国にも立派な人間はいるし、真面目な人間もいるし、そうじゃない奴もいる。馬鹿もいっぱいいる。日本の国会議員の中にだって、人間として最低な者もいる。だから、人種によって相手の見方を変えるという態度はおかしい。極めて狭い考え方と言わざるを得ない。民族主義のレトリックである。

ここにはアジア人観光客もよく来るが、私達でさえ相手が中国人か日本人かベトナム人かタイ人か、はたまたラオス人であるかネパール人であるか、サッパリ見分けがつかない。

駅の出口で張っている、かの詐欺師ジャン・ギャバン氏はプロだから出来るだろうけど、私達には無理だ。まして白人連中がアジア人を何人か見分けるなんて出来っこない。私達が白人を見て、相手がイギリス人かアメリカ人か、フランス人かハンガリー人かオランダ人か言い当てる事が出来ないのと同じだ。

夜、カタリンに電話した。

hungary19-3


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