マジャールの残影 22-1

1997年5月10日 土曜日 晴れ

今日は、ビガド―広場から船に乗ってセンテンドレに行く。船は10時に桟橋を離れた。

ドナウ河の水は薄茶色で、イメージとは異なっていた。思ったより流れは速い。しかしカヌーを楽しむ人たちが多く、シングルカッター、ダブルカッター、カヤック、カナディアンカヌーが水すましの様に水上を滑って行く。楽しそうだ。

船上から見るブダペストの街は殊の外美しい。

街を過ぎると人家はなくなり、大きな柳の木が鬱蒼と茂り水辺に影を落としていた。岸辺にピクニックにやって来て、バスケットからサンドイッチやワインを取り出して食事をしている家族連れの姿なども見えた。かと思えば、岸辺の細い道を自転車で走っている少年の姿や、釣り糸を垂れる男たちの姿もあった。それらが、次から次へと現れては消えてゆく。

ドナウの船旅は楽しい。

乗客達は、デッキのテーブルで仲間同士賑やかにビールを飲んだりしている人達もいるし、静かにチェスを指したり、本を読んでいる人もいる。

私達は、船の中で知り合った日本人の倉沢さんと連れのアンドレア(ハンガリー人、学生!)とラウンジで紅茶を飲みながら色々な話をした。

倉沢さんは30代後半くらい。ドイツに住んでいる。日本の会社のドイツ支店に勤めていると、名刺をくれた。なかなか良い人だった。連れのアンドレアとはインターネットで知り合ったそうである。

アンドレアは若いがなかなかの読書家で物静か。日本の文学も読んでおり三島由紀夫が好きだという。アンドレアは良家の子女らしく、上品で物静か、知的だ。

1時間半ほどで船はセンテンドレの船着場に着いた。

センテンドレは小さな町だが、コンクリートの四角いビルは一切なく、古い家並みが美しい。

14世紀、トルコの襲撃から逃れてきたセルビア人によって作られた町だ。丘の上に教会があり、そこに上ると見晴らしが良い。下の方には民家の茶色い屋根が牡蠣のように重なり、その向こうにはドナウ川が見える。絵描きにはモチーフに事欠かない街だ。

アンドレアは博識で英語の他に日本語、仏語を少し、ドイツ語を喋れる。彼女の案内でフィレンツィ・カーロイの美術館、大聖堂、セルビア正教会等を見て歩いた。

小さな町の中は、土産屋とレストランとビアホールとワイン酒場がひしめいている。石畳の狭い曲がりくねった道と、瓦屋根の古い民家と、教会へと続く坂が作り出す絵画的な空間は魅惑的である。照り付ける強い光線が作り出す光と影のドラマが劇的で、画家を惹きつける。

確かにセンテンドレは多くの画家を惹きつけ、ここで生まれた名作も多い。

hungary22-1


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