マジャールの残影 42-3

午後4時過ぎに再び街に出る。アパルトマンを出た所が駅前で、すでに町の中であるので至極便利だ。

メトロの出口の傍らに、乞食の老女が座っていた。50フォーリンのコインをフミコが缶の中にそっと入れた。老女は杖を抱えて眠ってるようだ。病気なのかもしれない。

駅のガード下で、いつものクラリネット吹きが今日もクラリネットを吹いていた。

ノートにボールペンを使って、このクラリネット吹きを手早く描いた。お礼に500フローリン札を男に上げると、彼は眼を一瞬丸くし、それから笑って私と握手した。振り返ると彼は手を振っていた。

町を歩けば、1日に10回くらい、そのような恵まれない人に出会う。その都度、フミコはコインを渡す。自炊をして、レストランで食事するお金を節約すれば何でもない事だ、と彼女は言う。私は、自分がさほど遠くない未来に乞食かストリートミュージシャンに転落?しないとは言えず、

「他人事とも思えないネ」

と言うと、彼女は笑った。

私が自費で2ヶ月もヨーロッパを旅行するもんだから、

「下川じゃ、私がとんでもない金持ちだと思う人もいるだろうな」

と言うと、彼女は

「貧乏だと思われるよりは良いかもね。それだけで尊敬してくれる人もいる訳だから」

と皮肉を言って笑った。

人間の運命なんてわからない。明日は私も彼らの横に並んで、ガード下に座っているかも知れないのだ。

「人間本来無一物」私はこの言葉が最も好きであり、この言葉を忘れさえしなければ、いつでも立ち直れると信じている。だから、そうなったらそうなったで良いや、なんて思う。別に怖いとも思わない。自分で自分を裏切る事の方がはるかに怖いし、悲劇的だと思う。

街中をブラブラし、裏通りを歩いた。何百年も昔の、崩れかけた壁が美しい。中世の生き残りの建物かも知れない。そんなものを発見した時は嬉しい。その質感(テクスチュア)に心を奪われながらさまよう。

どこかの店で熱い紅茶を飲み、どこかの店で夕食のおかずを買って、フミコと歩いてアパルトマンに帰った。

夕食はイワシの缶詰、赤カブとキャベツの酢漬けのサラダ、ヌードルスープとポルトガル?米のご飯であった。

夕食後、スタンドライトの光を強くして絵の仕上げをやる。

テレビで音楽番組を見てから寝た。

hungary42-3


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