マジャールの残影 53-1

1997年6月12日 曇り 暖かい

朝食の時に、ペンションのマダムが顔を見せたので

「ハローマダム、調子はいかが」

と言うと、マダムは頷き

「でも少し暑いわね」

と言った。

彼女は私達の事はよく覚えていてくれた。うるさくなく、なかなか親切な気の利く人だ。

朝食の後、昼過ぎまで部屋で日記などを書いて過ごす。廊下を挟んだ向かい部屋から、バイオリンを練習する音が聞こえてくる。

昼過ぎに、フミコがカレーが食べたいと言うので、昨日見つけたマーケットの中の小さなインド料理店に行った。ベジタリアン定食(800シリング)とサモーサ(300シリング)、それとチャイとソーダ水を注文した。

スパイスの味と香りが懐かしかった。紛れもなくインド世界がその中に存在していた。しかし、メニューは外国人好みのものばかりで限られ、ピリッとしたメリハリや辛さが今一だ。

ボリュームが少なすぎると思った。ライスはプレーンじゃなく、ジャンバラヤ風でいただけなかった。これだとカレーの味が台無しになってしまう。普通のチャパティとプレーンライスが最もカレーの味を引き出すものであり、このような組み合わせは現地ではありえない。

夜になって、郊外レストランに拝崎君に連れて行ってもらう約束をしていたので日本屋の前まで来ると、アーニャとその友人ペティアがいた。店の中には背の高い、眼鏡をかけた老人がいた。この人が店の創始者、今藤(兄弟)さんであった。

店の近くのガレージから、拝崎君の車で郊外のレストランへと行く。アーニャとペティアも一緒だ。

ドナウ川と一部が繋がる小さな湖畔のレストランだった。見晴らしの良いテーブルの下は小さな船着き場で、魚が跳ね、アヒルが泳いでいた。小さなボートやヨットが舫ってある。向こう岸の方には、レストラン・ボートの灯が瞬いている。

館の中で食事する人はいない。みんな館の外の庭のテーブルで食事を楽しんでいる。

庭の中央の大きな木の下には、白い竈とバーベキューの大きな竈があって、コックが汗をかきながら肉を焼いている。

私達はスペアリブ、フミコは雷魚のフライを頼んだ。私は飲み物に白ワインのソーダ割りを頼んだ。

飲み物を飲みながら、料理が出来るまでお喋りを楽しむ。私達のテーブルの上では日本語、英語、ブルガリア語が飛び交った。

拝崎君はブルガリアに長年住んでいたし、アーニャは以前に彼の奥さんだった人である。

料理が運ばれてきた。大きなまな板の上に、焼き立ての特大のスペアリブが乗っていた。凄いボリュームでビックリした。付け合せはポテトに茹でたコーンであった。それに、2種類のソースが添えてあった。スペアリブはタレにつけてから焼いてあった。なかなか美味いので歓声が上がる。

フミコの雷魚(カムルチー)のフライは白身であっさりしており、なかなか美味い。

私がすごい速さでスペアリブの山を平らげたので、皆驚いたようだ。ゆっくり食べないと体にも悪いですよと拝崎君にも言われた。ラーメンも早食いでは誰にも負けないが、それは心臓に負担をかけて、大いによくない事だそうである。

これからは、私も以前のような無茶は出来ないのだと思って、少し淋しかった。

hungary53-1


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