自転車旅行(スペイン・ポルトガル編)2-4

1990年3月14日

小鳥のさえずりと、湖の波の音で目がさめた。時計を見ると、10時半を回っていた。

マドリッドを出発して、かれこれ一週間になる。キャンプの場所として、この湖岸は美しく静かで、ロケーションも最高。水は何万ガロンもあるし、焚き木も拾えるので、今日はここにとどまり休養することにした。

熱いコーヒーを沸かして飲むと、寒さに縮かんだ手足が楽になった。スープと生のタマネギのサラダ、ソーセージ、バター、パンで朝食をすませた。

日が高く昇ると、すっかりあたたかくなり、日陰に移動しなければならなくなった。空には今日も雲ひとつなく、コバルトブルーのさわやかな色は、心を楽しくしてくれる。

僕がスペインを愛するのは、ひとつにはこの空の色のためでもある。キャンパーにとっては、天気が良いという事がなによりありがたい事なのである。雨が3日も続くと、スリーピングバッグはしめって、テントの中はかびくさくなり、キャンプ生活は苦痛となってくる。

連日の雨で、一週間以上せまいテントに閉じ込められた事があったが、しまいには気が狂いそうになった。それはまだ、アウトドアを始めたばかりの頃で、雨の中を歩き回る楽しさを知らなかったからだった。そういう時は、カッパを着て釣りをしたり、焚き木を集めたり、山菜を採ったりすると気分転換になって良いものだ。冷たい雨に凍えて外出から戻って来ると、カビくさいテントもしけったスリーピングバッグもありがたく感じられるものである。そして熱いコーヒーを沸かして飲むと、そんな時はすごく幸福な気分にひたる事が出来る。

人間とはなんとアマノジャクな動物であることかと、常々思うものである。

サイドバッグから石けんを取り出し、下着を洗って岩の上に並べて乾かした。ついでにシャボンで頭も洗い、体も拭いた。もう少し暑ければ泳ぎたい気分だ。

小型ラジオのスイッチをひねると、フラメンコギターの曲が流れ始めた。湖の水は澄んでいるとまでは言えないが、魚が棲息しているところから飲めると判断して、コーヒーを沸かして飲む。けっこう味は良い。水筒の水は、このあといつ手に入るかわからないので、予備に残しておく。

昼食後、湯を沸かして顔にシャボンをぬりたくり、小さな手鏡を片手に持って、久しぶりにヒゲを剃る。この手鏡は信号用としても役に立つので、何かと便利。

木陰にマットレスをしいて、ねころんで漱石の草枕を読む。僕らの生活も、草枕のスペイン版といったところである。

cycle2-4 スペイン


One thought on “自転車旅行(スペイン・ポルトガル編)2-4

  1. 最近は愛読しています。かならずfacebookのいいねをクリックしています。その愛読者が一人います。
    今日の日記にはfacebookのいいねボタンがありませんね。
    残念です。

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