続・自転車旅行(スペイン・ポルトガル編)4-4

1990年8月2日(晴れ)

朝9時頃出発。キャンプ場でゴロゴロしているより、自転車を漕いでる方が気分が良い。鬱蒼と樹林の茂る林道を進んだ。道は狭く、上り下りが激しかった。

途中、高い山の頂に非常に美しい城を見た。この辺りは名所旧跡が数多く、シントラをポルトガルで最も美しい土地だとT牧師夫人が言っていたのを思い出した。平野がずっと下の方に、霞んで見える。

つづら折れの急な坂を下って行くと、やがてシントラの町に着いた。右も左も分からぬ、加えて地図がいい加減で用をなさない。交通整理をしていたポリスに、ツーリストインフォメーションを教えてもらってオフィスを訪ねた。オフィスの中もカフェテラスと御同様、夏のバカンスを楽しむ観光客で混雑していた。地図を貰い、キャンプ場を教えてもらった。

町の外れのメルカードで野菜、果物を買って出発。途中、バルでコーヒーを飲んだ。ビカ(小さいカップに入った苦いコーヒー)はどこでも大体35エスクードだが、ここでは50だった。店のオヤジに道を教えてもらい、海岸へと下った。海岸まで緩い下り坂が続き、景色はどこか日本の山里に似ていて美しかった。

途中で腹が減ったので、残りのプラウ(インド料理でスパイシーな炊込み御飯)を木陰で休みながら食べた。彼女はもっぱらメロンを食べた。こちらのメロンは安く(50~100円/kg)、甘くて美味しい。

海岸に近づくと、道路の左右は別荘ばかりが並ぶようになって、リゾートに来た事を感じ、がっかりした。

がっかりはしたが、楽しむものは楽しむ。日中は海で泳いだ。大西洋の水は冷たかったが、太陽の熱い日差しの下では気持ち良かった。波が荒くてまともに泳げないので、ボディーサーフィンをして遊んだ。

夕方、ビーチを散歩した。崖の下に白いビーチがあって、その向こうに大西洋が一杯に広がって雄大な景色だ。大西洋に日が沈むのを見たのは、生まれて初めてだった。「ポルトガルは夜になるけど、アメリカはこれから陽が昇るのね」と、傍らの彼女がポツンと言った。

キャンプ場はビーチのすぐ上の所にあった。門の前からアスファルトの車道が2本伸びており、その両側に文化住宅みたいなテントが並んで、さしずめテントの団地という感じであった。そのずっと奥の突き当たりに小型テントのエリアがあって、旅行者が泊まっていた。ほとんどはバックパッカーである。

先の文化住宅のようなテントは1年中張りっぱなしで、キャンパーが(何年も)住み着いているのだ。中には、広さ15畳くらいの大きなテント製のガレージを建て、その中にトレーラーハウスやキャンピングカーを停めて暮らしている人達も多かった。これらのテントハウスの壁は透明なビニールの窓なども付いており、テレビ、椅子、テーブル、冷蔵庫などが中に見える。

夜になると、バルやレストラン(キャンプ場の中にある)は客で一杯になる。キャンプ場内には外灯があちこちに灯り、夜になると真っ暗な日本のキャンプ場とは大違いだ。周囲のテントに泊まっているキャンパーが酒を飲んで酔っ払い、ラジカセをガンガン鳴らし、うるさくて眠るどころではなかった。夜中に起きてトイレに行き、バルのすぐ下にあるパブを覗いてみると、ヘビーメタルなパンクロックと、ピンクや青のイルミネーションで、店が割れそうな騒々しさ。キャンパーが一杯で、店は繁盛している。

僕は首を傾げざるを得なかった。キャンピングとは、便利な日常生活から離れ、自然の中で不便な(シンプル)生活を楽しむものではなかったのか?

キャンピングの中に日常生活を持ち込み、あくまでも快適で便利な生活を捨てようとしないこの姿勢というものは、文明に毒された現代社会をシンボライズしているように見えた。シンプルな生活を好まないヨーロッパ社会の馬鹿さ加減、堅苦しさを、インドからヨーロッパに来て僕は感じている。

ヨーロッパに来て半年近くになっても、僕は完全にリラックスできないでいる。ランプを灯し、焚き火で料理し、星空の下でキャンプファイアを楽しむ、シンプルな日本のキャンピングが懐かしく思われた。ここでは、犯罪防止の外灯の明かりのために星空も月も見えない。焚き火も禁止だから、料理はガスコンロでしか出来ない。キャンプファイアの楽しみも無い。

隣のキャンパーが明け方まで馬鹿騒ぎしていたので、よく眠れぬうちに朝日が上ってきた。

cycleNext4-4


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