中国・シルクロードの旅 20-1

china20-11989年7月9日

ここはサリム湖である。ウルムチからバスで1泊2日。砂漠の中を走り続けて着いた時は服も体も荷物も埃で真っ白だった。

バスの運転手に旅社の前で降ろしてもらった。時計を見ると午前10時頃だった。

バスが行ってしまうと不安が残った。泥で造られたアラブ風の軒の低い民家が数軒あるっきりだった。家の周囲には羊が草を食んでいる。

突然、数人の男が馬を走らせてやって来た。黒っぽいハンチングをかぶり、黒い乗馬用のブーツを履き、片手に鞭を持っている。カザフ族である。彼らは風のように我々の前を通り過ぎ、草原の中へ去っていった。

急に、タイムスリップして過去の世界に迷い込んだのではないかと思った。呆然としながら、バスの屋根から地面に下ろしてそのままになっているリュックを肩によっこらしょと担ぎ、ギターを片手に二人は旅社の方へと歩いていった。

入口のあたりに公安(警察)の白い制帽をかぶったオジさんが立って我々を見ていた。「ここは未開放地区だから許可証を見せなさい」と追い返されるんではないかと思いながら近づくと、あにはからんや、オジさんはニコニコして「お前はズーベン(日本人)か?」と聞くので「そうだ!」と答えると、いっそうニコニコして我々に付いて来いと言い、親切に食堂の中にあるクロークまで連れて行ってくれた。

午前中は受付をしないという事だが、彼が係のネエちゃんに命令したのか頼んでくれたのか分からなかったけど、待つ程もなく2人部屋に荷を置いて寛ぐことが出来た。

腹がペコペコだったので、食堂で湯麺とピーマンとトマトと羊を炒めたのを一皿注文したらさっきの公安のオジさんが料理をテーブルに運んでくれた。一体どうなってるのかさっぱり分からなかったが、僕らはオジさんに「ありがとう」と言って、持参したナンを齧りながら料理を腹に詰め込んだのだった。もしかしたらオジさんはここの経営者なのかもしれないと思ったりして、泣く子も黙る公安のイメージが崩れてゆくのを覚えた。

食事を済ませてからトイレを探したが見当たらないので聞くと、宿舎の湖の間にポツンと立っている小屋がそれだった。トイレに行って、それから湖の岸辺に行って手と顔を洗った。水は透き通って、今まで茶色の水ばかり見てきた目にはとても新鮮で爽やかで気持ちよかった。ルーアーを投げたらトラウトが釣れそうだ。釣具が無いのが残念だった。

目を上げると、はるかな対岸の草原の上に雪を抱いた名も知らぬ山々が聳えていた。背後には旅社と一本の白茶けた道路と数軒の泥の家と木がほとんど生えてない山があるばかりだった。


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