旅の記録 印度編 5-2

india5-2夕方船に戻るとモハメッドはおらず、家族がいた。

腹の大きいモハメッドの姉が部屋に来て、絨毯の焦げた所を指さして文句を言い始めた。おいでなすったかと思いながら、相手の片言の英語を黙って聞いた。彼女は20Rs払えと最後に言った。

思ったより少額で拍子抜けしたが、布団やじゅうたんに焦げ穴(手の平大)を作ったのはこちらの落ち度なので、僕はすまなかったと詫びて彼女に50Rs渡した。それでモハメッドの母親と彼女の機嫌はすっかり良くなり、晩飯に毒や睡眠薬を混ぜられる危険性は減ったに違いなかった。

夕方、デッキでスケッチをした。

その夜は焦げ穴の開いた布団にくるまり眠った。夜半に降り出した雨は夜が明けても降りやまず、屋根から滴り落ちる水滴が水面に当たってピチャピチャと音を立てていた。

空の色は暗鬱で、雨の中を空港まで行くのかと思うと憂鬱だった。電話が無いので、今日のフライトの確認も出来なければキャンセルもここでは出来ない。空港には8時までに行かねばならなかった。

モハメッドが客室にシナモンティーとカングラを運んできた。カングラに手をかざし、ブランケットを肩からかぶって茶を飲んだ。

モハメッドは昨夜、布団の件で母に怒られたと言った。僕は彼女に50Rs払い、詫びたと言った。するとモハメッドはカシミール語で何やら喚いて台所の方に行った。驚いた事に、彼はこの金は受け取れないと言って50Rs札を我々に返してよこしたのだった。

しかし次の瞬間、彼は正体を現したのだった。彼は恐ろしい表情になり、50Rsでは足らん、布団も絨毯も使い物にならなくなったので新品に替えねばならない、と言い始めた。

我々は時間が無かった。あと1時間以内に6km先の空港に到着してねばならなかった。僕は頭に来て「ハウマッチ・ドゥユーウォント!」と怒鳴った。リュックを担いで船から出ようとすると彼はドアの前に立ちはだかり、我々を行かせまいとした。

こちらも完全に頭に来たので、大声で喚きたててやった。バカヤロー!ふざけるんじゃネェ、こんなボロ50Rsでたくさんだ。早くそこをどけってんだよ、殺されてえーのかてめえは!

モハメッドは僕より体が大きくしかも悪党だ、脅すにかぎる。フミちゃんが、空手を使ったらビビるんじゃない、と言った。そいつはいいアイディアだと、空手なんてやったことはなかったがカンフーのブルースリーも顔負けの演技と気合で、仁王のようなモハメッドもすっかり度肝を抜かれたじろいだのだった。

その隙に我々は舟から飛び降りて、泥でぬかった道をゼロ橋へ向かった。モハメッドは追っては来なかったが、「お前らをポリスステーションに連れて行くぞ、空港で待ってるからな」と気になる事を喚いていた。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>

Current day month ye@r *